クルーズレポート
  
個人主義的レポート
Star Clipper
帆船の旅、スタークリッパー
プーケット発 アンダマン海クルーズ
2010年1月
 
 
 1月末、冬真っ只中の日本からタイ・プーケットへ。目指すは帆船の旅。
帆船ってどんな船旅? そのことをまず私自身が語れない。語れないのに売れるはずがない。
今回の視察は私にとっては未知の世界であり、大変重要な意味がある。
スタークリッパーズは、モナコに本社を置き、ドイツ人オーナーが掌るヨーロッパ船社。
船客は、ドイツ人、フラン人が多く、次にイギリス、アメリカ、カナダなど英語圏の方が多い。
船客は一様に大型船を好まず、3500トンというスモールシップにおける船客同士の親密さを楽しんでいる。
 すべてが、とてもアナログ。帆はすべてクルーが手動で上げ下げする。
そして、昔の船にあるような大きな木製の舵で操船する。
航行中の80%は風の力で走る。つまり自然、風を利用する。時に必要以上に強い風であったり、弱々しい風のときもある。
それを帆の面積や角度を駆使して必要な分だけ風を取り込んで、速度を調整する。その苦労はエンジンでの航行の比ではない。
しかしすべてが海の男たちの仕事の基礎であると感じた。おそらく最新の大型クルーズ船のクルーも実はこうしたアナログな
基礎をしっかりと学んでいるのだろう。
 アンダマン海の夕日。昼間の暑さもやわらいで、船首が切りさく波の音さえ聞こえる静寂の時。
ここ数年、北米やヨーロッパの船旅が多かったが、アジアの船旅もなかなかいいじゃないか、そう思わせてくれる。
 よく磨きこまれたウッドのバーカウンター、素足にも感触がいいチーク材のデッキ、とてもよくメンテナンスされている。
スタンダードキャビンは、約11平米。エアコンや温水シャワーの具合もいたって好調。しかし、ふと思うのは、船の上で
それらを使うために、燃料を焚いたり、見栄えをよくするために水道管を見えないところに張り巡らしたり、
そんな日常では当たり前のことさえも、この船に乗ると考えさせられる。それらは、本当に必要なのか?
やっぱり現代人は贅沢、甘やかされている。そしてどこかスマートに生きようとカッコつけている。
でももう現代人はこういった文明の利器を手放すことは絶対に出来ない。
 アトラクション、帆に上る、ロープで帆を揚げる、クルーによるロゴ入りウェアを着たファッションショーといたって素朴。
限られた設備やスペースの中で、クルーが最大限に船客を楽しませようとアクティブに働く。
バー、ライブラリ、ダイニングと、パブリックスペースは実質3箇所。近代の超大型船のようにバーやレストランだけで
20箇所以上もある船と比べると圧倒的に少ないが、少ないと感じるよりはむしろ、このアナログな帆船に
フルコースを供するダイニングやシャンペンをふるまうバーがあることが不思議、そして贅沢。
ホテル部門については、食事、キャビンのメイキングなど、一流のサービスを提供してくれる。
クルーが誇りを持っていることが随所に感じられる。
しかし、3500トンと小さく限られたスペースの中なので、少し裏方が見えたりする。
そんなアットホームな人間臭い部分もこの船の魅力である。
 美しい。実に美しい。正に船は女性名詞であると感じる。
時に白い帆を目一杯に広げ、アンダマン海の風をたっぷりと受け
船を推し進める。
 
人の英知とは、これほどにも力強く優れているものなのか。
本当に素晴らしい。
 この船旅の最後の夕暮れが訪れた。
私だけかもしれないが、いつも船に乗ると最終日を待っているような気がする。
それはなぜか?
明日は船を下りる日。すると、あれもしたい、これもしたい、という欲がすべてなくなり、
妙に落ち着けるのだ。
こんなにたくさんの人と言葉を交わした船旅は今までになかった。
バーカウンターで隣り合う。
朝食のテーブルをクルーと共にする。
島への上陸、テンダーボートで1人でも多く乗れるよう詰めて座る。
そんなとき、会話が生まれる。
結局、人は人から喜びをもらったり、感動を受けたりする。
スタークリッパーという小さなコミュニティは、日を増すごとに
新密度を深めていった。
キャビンにおいてあった、スタークリッパーズ社の雑誌を呼んでみた。
夏の終わりの大西洋横断、実に21泊を要する。
大型船なら最短6泊で、ルート上の最短ルート(北周り)を航行するが、
スタークリッパーズの帆船は、古代コロンブスの知恵に習って、
風を受けるのにもっとも最適なルートを航行する。
5本のマストいっぱいに帆を張って、目一杯の風を受けて、
それでも21泊をかけて大洋を渡る。
「それはいつの時代の話?」と疑いたくなるような航海。
紛れもない現代の話である。



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