クルーズレポート
  
個人主義的レポート
Le Soleal
ル・ソレアル (カンパニー・デュ・ポナン)
日本初寄港クルーズ 小樽〜大阪・大阪〜香港
2013年10月

10/15 小樽

 台風が接近する中、曇り空の小樽港に真新しいフランス船が佇んでいた。ル・ソレアル。フランス語で太陽を意味するソレイユからの造語である。
ル・ソレアル擁するフランス船社カンパニー・デュ・ポナンとして初の日本寄港、クルーもやや緊張した面持ちだ。
 私はここから乗船する日本人船客の対応のため、香港まで約2週間乗船する。朝から船に乗り込み、ホテルマネージャーやクルーズディレクターなど主要なスタッフと打合せを重ね、ゲストを迎え入れる準備を進めてゆく。
 今やクルーズは1泊1万円台から乗船できる。しかしそういった安いクルーズのサービスや食のレベルは「それなり」である。クルーズの低価格化は、クルーズへ行くことが出来る可能性を増やし、それはそれでいいことなのだが、他方「価格よりも質が大事である。」との価値観を持つ人もいる。そういった諸氏が今年の数ある日本寄港クルーズの中でこのル・ソレアルを選んでくださった。
 夕方5時、船客が続々と乗船してくる。
早々、ボートドリル(避難訓練)が行われる。今回はシニアの船客も多いため、クルーから日本語できっちりと説明をするよう、指示が入る。
午後7時小樽を出港。台風が気になるところではあるが、ル・ソレアルの日本周遊クルーズが静かにスタートした。

 

10/16 終日クルージング

台風26号は太平洋を北上、ルソレアルは日本海を南下。台風の西側は比較的影響が少ないとされる。それでも5mの波はル・ソレアルのデッキ3から見ると目線を超えている。

しかし見た目の荒々しい海ほどこの船は揺れない。非常に安定している。就航後3ヶ月の新造船ゆえの最新技術が備えられているせいだろうか。事実、ロールスロイス社製のフィンスタビライザー(横揺れ防止装置)など最新のテクノロジーが搭載されている。さほど揺れていない証拠にディナーテーブルには全船客が顔を見せ、いつもの談笑と共に美食の宴が始まった。

10/17 金沢

 昨日の海が嘘のように穏やかな朝、ル・ソレアルは定刻どおり金沢港へ入った。
やわらかな日差しのすがすがしい朝だった。
 ル・ソレアル発入港の歓迎式典には着物姿の女性が並び、遠いフランスからの船客はその姿に見とれていた。
 金沢は兼六園をはじめ、東茶屋街など見所がたくさんあり、伝統的な日本をフランス人船客に楽しんでいただくには日本海側ではうってつけであろう。
 夕刻の出港時、すでに暮れているにもかかわらず、たくさんの人たちがル・ソレアルの出港を見送りに来て下さった。
今宵はキャプテン主催のウェルカムパーティが催され、会場の入り口でキャプテンがお一人ずつ船客を出迎える。キャプテンと船客は記念撮影に収まり、シャンペンのグラスを受け取り、席に座る。ほどなく「カナッペはいかがですか?」とウェイターが差し出す。
ここは紛れもない日本の海上なのだが、船の中は地中海やエーゲ海と何ら変わらない、いつものフランス船の優雅な時間が流れてゆく。
 フランス人キャプテン、レミ・ジェネバス。実は小樽でキャプテンの交代があり、レミキャプテンは、交代早々2つの台風と格闘する困難な操船を担うこととなった。
しかし経験から来る勘が働くのだろう。時に静、時に動、巧みな戦術で上手く台風をかわし、結局すべての港に定刻に船を着ける。その手腕には感心する。
 パーティーからフレンチディナーへと時間が流れてゆく。通常のディナーは前菜、スープ、メインディッシュ、デザートを各数種類の中から選ぶのだが、今宵は特別なキャプテンズ・ガラディナーであり、チョイスはなくセットメニューとなる。そこには、フランス人エグゼクティブシェフの「私のもっとも自信作の一皿をみなさんに食べていただきたい。」との熱い思いが込められているのだ。キャビアの前菜に始まり、鯛のソテー・ライムブーレソース、子牛のテンダーロイン、チョコレート&レッドフルーツのデザートと続くフレンチディナー、その水準の高さに船客が唸る。人は美味しいものを食べると笑顔になり会話が弾む。最後はエスプレッソかカプチーノで締める。圧巻のディナーに満足した後は、ピアノコンサートやダンスミュージックなどのナイトライフへと続く。あらためて我に返る。今日金沢を出港し今境港へと向かう日本海の洋上である。しかしながら、そう、いつか乗船した南仏ニースからカンヌ、モンテカルロへとむかう洋上とまったく同じ雰囲気なのだ。一瞬ここがどこなのかわからなくなるぐらいの錯覚をおぼえる。フランス人ダンサーが踊り、モーリシャス人のウェイターがカクテルを作る。実に不思議である。  

10/18 境港

日本人であっても、知らない日本がたくさんある。このクルーズは日本人船客にとって日本再発見の旅でもある。ここからは足立美術館や出雲大社へと船客が観光に出かけてゆく。私の洋上での仕事は、簡単に言えば「日本語対応」。具体的には船内新聞やディナーのメニューを毎日日本語訳、入出国審査の案内、寄港地観光の手配、レストランやスパの予約など、様々である。秋の美しい日本を巡るクルーズではあるが、残念ながら昼間観光に出かけることは出来ない。いつかリタイアする日が来れば、そのときの楽しみに取っておこうと思う。
朝食をカプチーノとクロワッサンで済ませようとしていたところに、ダイニングのマネージャーであるTOTOさんが話しかけてくる。彼とは昨年、姉妹船ロストラルでベニスからアテネへのクルーズで知り合った。彼の相談はフィリピンに暮らす奥さんに仕送りをしたいのだがどうすればいいか、ということだった。まず「ウェスタンユニオンバンクはこの街にあるか?」との質問。私は「この街にはないだろう。」と告げると困った表情。よほど大事な金なのだろう。私は考えて「私のPCはネットに繋げられる。ネットバンキングを使って送金しようか?ただし、私を信用できればの話だが。」と提案した。すると、「是非頼む。」とのこと。数時間後、彼は私に現金700ユーロを手渡した。よし、しっかりと届けてやろう!!

10/19 釜山

 快晴の中、ル・ソレアルの眼前に都会が見えてきた。韓国最大の貿易港、釜山である。
 実は、私の最初の外国船の旅はアメリカの貨物船だった。小学校3年の時、親父に連れられ、神戸から乗船、ここ釜山へ降り立った。当時韓国は厳しい戒厳令下にあり、銃を持つ軍隊が列をなして道を行く、そんな時代だった。港に近いチャガルチ市場も今よりも貧しい建屋で、海産物の干物などが山のように並んでいた記憶がある。今や世界有数の貿易港、街には高層ビルが建ち並び、車の数も多い。
 今日は少し自由な時間が取れたため、懇意のお客様と街へ繰り出し、美味しいカルビ焼肉を堪能した。

10/20 終日クルージング

 昼過ぎ、ル・ソレアルは一列に並ぶ船隊に加わり、関門海峡を通過。思いのほか幅が狭く、海流が混ざり合うのが肉眼でも見て取れ、なかなかエキサイティングである。海峡を抜けるとそこには美しく穏やかな瀬戸内海だった。多島海に沈む太陽、穏やかな海、ここはヨットマンにはきっと素晴らしい海に違いない。

10/21 広島

 美しい朝焼けの中、ル・ソレアル穏やかな広島湾を静かにクルージング、宇品の東にあるクルーズ専用ターミナルへ接岸した。
 プールサイドのビュッフェでコーヒーを飲んでいるとダイニングマネージャーのTOTOさんが満面の笑顔で寄ってきて、握手を求めてきた。お金が奥さんに届いたそうである。よかった、よかった。
 私の仕事は一言で言えばクルーズのセールスである。しかしこのル・ソレアルは比類なき独創的なフランス船であり、今までなかなか理解してもらえなかった。船とはある意味動く広告塔でもある。百聞は一見にしかず。各寄港地で地元の方を船内へ招いて船内見学会を行った。クルーズマーケット拡大にはこういった活動がとても大切なのだ。

 はかなくも洋上の楽しい時間はどんどん過ぎてゆく。気がつけば明日は下船日、今宵はフェアウェルパーティー&ディナーである。今宵のディナーは、マグロのたたき、フォアグラ・ハイビスカスのジュレ添え、帆立貝のソテー、ビースステーキ・フォアグラとトリュフのソースと一層贅沢な晩餐。あらためて思う。フランス人とはなんと贅沢な人たちなのだ、と。  

10/22 大阪

目が覚めるとル・ソレアルは大阪湾に入っていた。たくさんの船が大阪港を目指してくるのが見える。港が近づくとフェリーや貨物船などがさらに増え、都会の港特有の入港シーン、それは今年3月に訪れたシンガポールの光景と重なった。
 下船日の朝もゆったりと朝食を摂り、船客は船を後にする。フランス人船客の大半はここから京都観光へと出かけてゆく。
  さて、あと数時間もすれば次のゲストが乗船してくる。ここ大阪から香港へ、あたらしい船旅がスタートする。  

10/22 大阪

今年7月、イタリアのフィンカンティエリ造船所で出来たばかりの新造船がデビューイヤーにしていきなり日本へやってきた。ル・ソレアル。フランス語で太陽を意味するソレイユからの造語である。7月にベニスを出港し、アイスランド、グリーンランドを経て、ベーリング海を南下、ロシアのペトロハブロフスクを経て10月15日に小樽へ寄港、そこから1週間の日本周遊クルーズをへて今日、大阪に至った。

夕刻、新しい船客が乗船。日本人船客も20名程度乗船。大阪発ということもあり関西のお客様が多い。同じ大阪弁で話すので気楽でもあり話も盛り上がる。余談だがこういういい船に乗る方はあまりインターネットをやらない。アナログである。大阪で美味しいお店を教えて欲しいと尋ねると、一生懸命調べて、手書きで紙にその情報を書いてくださる。私は美味い店を紹介する本よりも口コミを信じる。まず間違いないからだ。

 実は次の台風が接近している。太平洋を北上、ル・ソレアルは鹿児島へ向け南下、ディナーを取っているとキャプテンに呼ばれ、「Masaaki、我々は定刻に出港し、できる限り飛ばす。そして明日の未明にも鹿児島の錦江湾に船を入れる。日本人船客への承知を頼む。」。

物静かなレミキャプテンが攻めに転じた。

10/23 終日クルージング

朝からなかなか厳しい海である。幼少期大阪から宮崎や鹿児島へ何度かフェリーに乗った時、ひどい揺れを経験している。それを思い出した。日本は世界的に見てもどちらかといえば悪い海に囲まれている。そして今年は例年以上に台風が多い。夕刻からのキャプテン主催のウェルカムパーティーは明日に延期、それに続く予定だった特別ディナーのメニューも明日のものと差し替えられた。

  
 

10/24 鹿児島

ル・ソレアルは定刻に鹿児島港に入港。台風の影響かやたらと湿気がある。

いつもはオレンジジュースとカプチーノ、それにクロワッサン1個の朝食で済ませていたが、久しぶりにしっかりと朝食をいただいた。とろとろのスクランブルエッグなど、シンプルな料理にもセンスを感じる。果肉の入ったオレンジジュース、香り立つエスプレッソも美味い。ここが日本であっても船内は思いっきりフランス船である。

10/25 終日クルージング

台風に最も接近する。台風は船の東側を北上、ル・ソレアルは波の高さ、風を計算し、少し西回りで那覇を目指す。船内ではライブミュージック、ビンゴゲーム、ミュージカル、ダンスタイムといつもの優雅な時間が流れてゆく。このクルーズには日本のクルーズジャーナリストの第一人者である上田寿美子氏が乗船されていて、貴重な機会ゆえに様々な質問を投げかけ、教えを請う。何しろ世界最大のクルーズ会社のCEOにアポイントが取れるトップジャーナリストである。

ディナーの後は日本人コーディネーターとしての仕事である船内新聞の和訳とその新聞の配達がある。キャビンが並ぶ通路でエンターティナーとして乗船しているフランス人ダンサーと少し話した。母親はベトナム人だという。か細い彼女は12月までこの船で働き続ける。洋上では一日も休みはない。厳しい仕事である。    

10/26 那覇

南国の太陽が出迎えてくれた。どこかほっとする。少し風が強いものの、太陽の日差しがル・ソレアルのプールの水をきらめかせる。アドリア海の洋上にいるようなまばゆい光景だ。日本人船客の方は首里城などの観光に出かける。私はレンタルしていたポータブルWi-Fi を返却するためコンビニへと向かう。明日から外国なので使えなくなるからだ。

正午過ぎ、船内で出国審査が行われる。いよいよル・ソレアルは日本を離れる。

 
 
 

10/27 基隆(台湾)

 目が覚めると、ル・ソレアルは快晴の下、淡いエメラルドグリーンの海を順調に航行していた。昨晩時計の針を1時間戻した。今日のランチはシーフードビュッフェ。海老やかにがふんだんに振舞われ、焼き魚のグリルに特製のサルサソース。やさしい太陽の中、おいしいワインといっしょにいただいてると、少し遅めのバカンスといった気分だ。

正午過ぎ、台北の外港、基隆港にさしかかる。ここは昔から世界一周などの客船が日本から香港への途中、寄港してきた。ターミナルは歴史があり、市街地まで歩いてゆける。

基隆の街を歩いてみた。とても古い建物が立ち並ぶ。市場があってどこも活気がある。露店が並ぶにぎやかな道。家族連れで食事をする人たち、そうか、今日は日曜日だった。中華の点心や牛肉麺、たこ焼きの屋台まである。駄菓子屋もあって、昔子供の頃母親に連れて行ってもらった夏祭りの夜店を思い出した。どこか懐かしい光景であった。

午後9時、基隆の夜景に包まれて、ル・ソレアルは最終地香港へ向けて出港した。

 
 

10/28 終日クルージング

このクルーズには、雑誌やテレビの取材陣が多数乗船している。日本にこのようなヨットスタイルのフランス船が来ることは珍しく、それ自体がちょっとしたトピックスなのだ。

そこで取材陣からキャプテンやホテルマネージャーへのインタビューの場をセッティングしたり、ソティスがプロデュースするスパでは、スパのスタッフにモデルになっていただき、トリートメントのシーンを撮影するなど、その対応に追われた。

終日航海日は、船内のイベントが楽しい。午後からはダンスレッスン、プールを使ってのウォータージム、ストレッチ体操など。お料理教室ではトリュフのリゾット。普段の日常でトリュフを使うことはあまりないだろうが、そういう日常とかけ離れたお料理教室もまた、フランス船ならではとも言える。

早いもので、明日は香港。今宵はキャプテン主催のフェアウェルパーティーがメインラウンジで盛大に催された。フランス人クルーが勢ぞろい、キャプテンが今航海への乗船のお礼とこの後日本やフランスへの安全なご帰宅を願うスピーチを述べられた。1週間もこの船で過ごせば、小さい船なので、船客同士がなんとなく顔見知りになる。自然とシャンパンのグラスで乾杯し、旅の思い出に華が咲く。パーティーからディナーへと優雅な時間は流れる。今宵のスペシャルディナー、フォアグラのソテー、大阪湾で獲れたヒラマサのソテー、ビーフテンダーローイン・フォアグラとトリュフのソースがけ、ホワイトチョコレートドーム・カラメルクリームに焼きりんご添えと、高級食材をふんだんに使用したゴージャスなフレンチディナーとボルドー産ワインの宴。この会社の船に乗るといつも感じ、教わることがある。それは「人生は楽しむためにあるのだ。」と。   
 

10/29、30 香港

左手は香港島。金融街の高層ビルが立ち並ぶ。右手は九龍。ネーザンロードには2階建てバスが走り、ペニンシュラホテルはいつ見ても存在感がある。ル・ソレアルは無数の小船が行き交う中、九龍サイドのオーシャンターミナルへ無事接岸した。ここも世界を一周するクルーズ船の要所であり、クイーンエリザベスUも何度も接岸した。クルーズ船はフィリピン人クルーが多く、ここ香港でクルーの乗船・下船も行われることが多い。さすがに香港まで来るとけっこう暑い。紛れもないアジアの気候だ。日本人船客の方にお誘いをいただき、いっしょに飲茶ランチを食べに出かけた。ネーザンロードはいろんな国の人が行き交う。香港の信号機はカタカタカタという独特な音が鳴る。その信号が青になるとたくさんの人がいっせいに歩き出す。九龍もずいぶんと変わってしまった。新しいビルがどんどんと立ち並び、昔あったはずの安くて美味い麺類の店がなくなっていた。香港は今貧富の差がかつて以上に激しく、それが大きな社会問題となっている。高級スポーツカーに乗る人がいて、南国の果物をかごに載せて売り歩く行商の人がいて。実は、その光景は昔から全然変わっていないのだが。
フランスの新造船「ル・ソレアル」が誘う大阪から香港へのクルーズ。船内やそれぞれの港で触れ合う人たちと言葉を交わし、時には感化され、ちょっとショッキングな光景を見たり、感動させられたり。その心の持ちよう、心のゆさぶられ具合が旅のいい所ではないだろうか。     

 



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