クルーズレポート
  
個人主義的レポート
Nipponmaru
にっぽん丸 (商船三井客船)
商船三井創業130周年記念クルーズ
2015年5月


 
 

にっぽん丸。日本の客船3隻の中では美食の船として名が通っている。現在のにっぽん丸は3代目、初代のにっぽん丸はブラジル移民船を改装したものだった。私の幼少期がちょうど初代にっぽん丸の頃だった。船好きの父に連れられ何度か乗船した経験がある。当時、朝食にオートミールというものを初めて見て驚いた。まさか砂糖と牛乳をかけて食べるとは思わなかった。それにグレープフルーツ、ガーリックトーストなど、家では食べたことがないものがずらりと並び、当時のにっぽん丸の洋上は思いっきり西洋であった。もう40年も前のことである。その頃は他の日本船である飛鳥Ⅱもぱしふぃっくびいなすも存在しなかった。商船三井客船だけがずっと客船事業を今日まで継続している。その親会社である商船三井が今年130周年を迎える。今回乗船の機会を得たワンナイトクルーズは、その記念クルーズである。

午後5時、横浜港大桟橋客船ターミナルにて乗船が始まる。船内に足を踏み入れるとクルーが私の客室へと案内してくれる。にっぽん丸は4年前にかなり大規模な改装を行った。改装とはあなどれないものでけっこう新品同様になる場合もある。にっぽん丸も時流に乗ったプライベートバルコニー付のデラックスな客室や、新たなパブリックスペースを上層階に造り、より華やかな船になった。
 午後6時、出港。5色のテープが飛び交い、デッキではスパークリングワインが振る舞われ、銅鑼の音が鳴り響く。年配の方が多いと思いきや、けっこう若い二人連れや女性同士の友人グループ、一人旅と思しき紳士など、多彩なゲストが乗船している。このクルーズは短いワンナイト、明朝には船は大桟橋に戻ってくる。どうか時間がゆっくりと流れるように、と願う。

 雑誌の取材をかねての乗船だが、ちょっとした休息にもなった。それが日本のクルーズ船のいいところ、何時間も飛行機に乗って外国まで行かなくても、日本中ごく身近な港から年中いつでも乗ることができる。例えば、「今度の週末、箱根の旅館に行くか? それともにっぽん丸に乗るか?」といった感じの選択肢も生まれる。

船内を散策してみる。私自身なぜ日本船の中でこの船が好きなのか、そのひとつは船のサイズにある。22000トンというサイズが気に入っている。ヒューマンサイズというか、すべてを掌握でき設備も十分で、混雑することもなく、それは国内外問わずスモールシップに共通することである。

 午後7時、メインダイニング「瑞穂」に向かう。ダイニングの入り口でマネージャーが席をアサインしてくれる。私は取材で写真を撮りたいため、他の船客に迷惑がかかるといけないので一人用のテーブルをお願いした。椅子に腰かけるとほどなくディナーメニューを持ってきてくれる。その内容がいつにもまして豪華。アペリティフ、オードブル、スープの後、メニューにはロブスターのフランス風、地鶏もも肉のレジェンス風ヴォローヴァン添え、牛フィレ肉のメダイヨンステーキ現代風オランデーズソースと並んでいる。私はこの中からチョイスするものと思ったら、なんと全部出てきた。さらにウェイトレスの方が「コールドプレートもぜひお召し上がりください。」とローストビーフとスモークしたタンを持ってきてくれた。そしてデザートと特製のパン3種。「あれ、日本の船ってこんなにパワフルだったか?」とちょっと面食らうほど。印象に残っているのはコンソメスープの深い味、地鶏もも肉の濃厚なソースの風合い、牛フィレ肉の見事な焼き加減とそれにかかるオランデーズソース。火加減、風合い、お味。日本人の繊細さを感じた。この船には日本人の美意識がいっぱい詰まっている。

にっぽん丸には寿司屋がある。カウンターに腰かけ、おまかせで少しだけ握っていただく。丁寧に仕込んだきれいなネタが並び、シャリが小さめの形の良い握りが出てきた。このクルーズはわずか1泊、ほぼ全員がメインダイニングで夕食を摂るはずだからここへ立ち寄る人は少ないと思われるが、お客様を迎える完璧な構えが出来ている。「何とも贅沢なことをするなぁ。」と思ってしまう。

午後845分からはドルフィンホールでカクテルパーティーとクラリネット奏者花岡詠二 スヰング・オールスターズの生演奏。気が付けば終演まで聴き入っていた。食を楽しみ、生の音楽を楽しみ、その過ごし方は、外国船も日本船も変わらない。日本船の不思議な所は船客に国籍の交わりがないことだ。外国船の場合、いろんな国の船客、いろんな国のクルーが乗っている。この船の船客は全員日本人、だから商船三井客船は日本人が楽しめる船旅をいつも追及してきた。それは思いの他よくオーガナイズされ、そつがない。ショーの後カジノがオープンする。日本船ゆえ現金は掛けられないのだが、ルーレットやカードのディーラーの手さばきが見事に美しく、それに群がるゲストもテンションがしっかりと上がってゆく。

 デッキ5の最前部にネプチューンバーがある。最近の大型船には10も20もバーやラウンジがあったりするが、私は居心地のいいバーがひとつあればいいと思っている。名船には必ずいいバーがある。QE2のチャートルーム、ロッテルダムのオーシャンバー、深く腰掛け、いいウィスキーをストレートでゆっくりと流し込めば、喉元が熱くなり、それが至福の時となる。ネプチューンバーはかなり暗めのライティング、こじんまり感がたまらなくいい。ふと奥の方から声をかけられた。某クルーズ氏編集長のM氏、同席させていただき、美味しいハイボールをご馳走になった。M氏からこの船の逸話を伺った。最近の船はある程度加工した食材を積み込むのだが、にっぽん丸は肉は肉の塊で仕入れ、船の上でさばき、パン職人は毎朝3時に起きて生地を捏ねるという。美食の船で売ってきたにっぽん丸としては、そこは譲れない一線なのだろう。

 朝早めに起きてデッキを散歩しようと思ったがあいにくの雨、最上階前方のホライズンラウンジでオレンジジュースを一杯いただく。このラウンジの一角に和室がある。私はいつも誰もいないのを見計らって、こそっと大の字になって寝てみる。畳が恋しいのだ。ほどなく朝食の時間になり、メインダイニングに向かう。和朝食をお願いした。おかゆに味噌汁、鮭、卵焼き、ひじき、梅干し、納豆。日本船の旅には旅館の心地よさがあるのだ。さらに欲張ってオムレツを焼いてもらった。これまたなんと美しいオムレツ!! ホテルオークラ並みの美しさである。

船は東京湾に入っている。いつも過密な航路で朝は様々な貨物船や運搬船との接近戦となる。
大浴場へ行く。これも日本船だけの特権。朝風呂でシャキッとして下船に備える。
いよいよベイブリッジが見えてきた。午前10時、にっぽん丸は大桟橋へ接岸した。
近頃、にっぽん丸のクルーズは人気が高く、夏の花火や祭りを訪ねる風情あるコースは軒並み完売状態である。外国のクルーズ船が11万円台からある中、日本船の船旅はけして安くはない。しかしその価格帯にもバリューを感じる人たちがいて活況を呈している。そのバリューとは何なのか?たぶんそれは、繊細な牛フィレ肉の火加減や、折り目正しいクルーのサービス、きれいなオムレツ、一言でいうと日本人の繊細さゆえの美意識に安心感を憶えるのではないだろうか。今夏、にっぽん丸は北海道へと向かう。「飛んでクルーズ北海道」という人気のシリーズがある。小樽発着で利尻、羅臼、礼文を巡る。北海道の自然を海から楽しみ、地元の食材で作られる美食を満喫できる毎年人気のコース、これに一度参加してみたいと思っている。


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関連サイト: にっぽん丸




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