クルーズレポート
  
個人主義的レポート
Aegean Odyssey
エーゲアンオデッセィ (ボヤージュ・トゥ・アンティクイティ)
バンコク〜ホーチミンシティ
古代文化と歴史を探訪する陸の旅、そして海の旅
2012年12月
 
ユニークなクルーズ会社が誕生した。ボヤージュ・トゥ・アンティクイティという2010年にスタートしたばかりのクルーズ会社で、今密かに人気を集めている。
 今回はバンコクからホーチミンシティまで船に乗るのだが、その前にバンコクのデラックスホテルに滞在、さらにはカンボジアのアンコールワットへの1泊旅行が含まれている。
 つまり、クルーズ前は空港まで専用車が迎えに来てくれ、ゆったりとホテルに滞在、そして時に観光。クルーズ後も下船地でホテルに滞在、空港まで送り届けてくれる。つまりあとは日本からの航空券を用意するだけでOKなのだ。
さらには、クルーズ中すべての寄港地での観光が無料で用意されている。

12/28〜12/29
年の瀬、寒い成田から搭乗、香港経由でバンコクに夜8時到着。到着口を出たところに現地の係員が我々の到着を待ってくれていた。そして用意された専用車の後部席に乗り込む。ドアを閉めると空港の喧騒から遮断され、ほっと一息。車はバンコク市内チャオプラヤ川に面したシャングリラホテルへ約30分ほどで到着。チャオプラヤ川に面した素晴らしい部屋に通された。眼下にはライトアップされたプールが見え、遊覧船が川を行き来する。旅装を解き、大きめのバスタブにお湯を張る。この旅の始まり方、私にとってはとても新鮮。「これがクルーズの始まりなの?」と思ってしまうほど、ゆったりとその旅は始まった。
 たおやかな笑顔に満ちたホテルのスタッフ。プールで泳いだり、本を読んだり。心から寛いだ。
12/30
今日は、朝から空路カンボジアへ向かう。わずか50分のフライトでシェムリアップに到着。
早速アンコールワットの観光へ向かう。アンコールワットではトゥクトゥクに乗って観光。
日中かなり暑いのだが、トゥクトゥクが走り出すと意外にも風が爽やか。森の中を走っているとぞうがすれ違ったりする。小さい子供たちは裸足で元気に走り回る。とても平和な光景。
しかし、カンボジアは1972年から1998年まで内戦が続き、国民にとっては希望の持てない時代が続いた。現地のツアーガイドが言った言葉、「今、平和が訪れ、私にもこのように仕事がある。こんなに幸せなことはない。」。その言葉がとても印象的だった。
アンコールワットは、想像をはるかに超えるスケール。壁の彫刻は極めて細かく、一部戦火の影響で破壊され修復中の箇所も存在するが、その素晴らしさは一見の価値がある。夕暮れ時のアンコールワットの本当に美しかった。穏やかな夕景とゆっくりと過ぎてゆく時間。この国に平和が訪れて本当に良かった。
シェムリアップでは、5スタークラスのホテルに滞在。そしてこの夜はクルーズ船客だけのプライベートディナーがプールサイドで行われた。
 このクルーズ会社のツアーは非常にサービスが行き届いている。例えばホテルのチェックイン、飛行機の搭乗手続きはすべて現地のスタッフが先に済ませてくれており、そういった面倒が一切ない。だから陸の旅特有のストレスがないのだ。このクルーズ会社が目指すスタンダードレベルが感じ取れる。
12/31
 昼前の飛行機でバンコクへ戻り、再びシャングリラへチェックインした。
夜は盛大なガラビュッフェがプールサイドで行われ、この上ない贅を尽くしたお料理が並んだ。
そしてカウントダウン。新年を迎えるとチャオプラヤ川から一斉に花火が上がる。宿泊客同士が互いに新年を喜び合う。さぁ新しい1年がまた始まる。

1/1
 ようやくクルーズが始まる。昼過ぎにバスに乗りバンコク港へ向かう。約30分で到着。美しい白い船体の「エーゲアンオデッセィ」が見えた。職業柄、船が見えてくるとテンションが上がる。乗船手続きを済ませ、ギャングウェイを渡る。
この船のドレスコードは毎日カジュアル。スーツを持ってゆかなくてもいいので荷物が少なくて済む。ディナー時のワインもクルーズ代に含まれている。今回、同行してくれた雑誌やテレビの取材陣とこれからの航海の平穏を願い、皆で乾杯をした。

1/2
今日は終日航海日、北緯10度近くを南へ向けて航行、カンボジアのシアヌークビルを目指す。
じりじりと焼ける太陽、東京は気温7度というのに、ここは真夏だ。
船内はとても明るい色調でまとめられていて、いかにもギリシャの船といった感じがする。
朝食はビュッフェレストランで。好きなものを好きなだけ取ると、そのお皿をウェイターが席まで運んでくれる。席に着くやいなや、ジュースとコーヒーがさっと注がれる。そんな流れるような気持ちのいいサービスから一日が始まる。
エーゲアンオデッセィは非常に優れた構造をしている。そして11000トンというサイズがこじんまりとしていて絶妙だ。船内にはどこかアットホームな雰囲気が漂っている。そしてこの船に乗る船客にとても親しみをおぼえる。それはなぜかと考えてみたのだが、このクルーズ会社のコンセプトは歴史と文化を訪ねる船旅、つまりそれらへの非常に純な好奇心で乗船している方が多く、皆さん次の寄港地での新たな発見にワクワクとさせている。そんな所が、基本的には高潔かつ真面目な日本人にはとても合うのだと思う。
 船内でのイベントは、寄港地観光のレクチャー、クラシックやジャズの生演奏などいたってオーソドックス。お仕着せのイベントがないため、船客は思い思いの時間を過ごすことが出来る。
 ほどなくランチタイム。ビュッフェレストラン後方のデッキでは、野菜と米の麺の炒め物を一人ずつに作ってくれる。これが美味しくて好評だ。南洋の青い空の下、冷えたビールといただく。アジアの船旅もなかなかいいじゃないか。
 夕方、キャプテン主催のウェルカムパーティーが催された。
入り口付近でキャプテンが船客一人一人を出迎え握手。この光景は今やクルーズ船ではあまり見かけなくなった。船が大きくなりすぎて、数千人の船客相手ではこういったサービスは不可能になってしまったのだ。ある意味、オールドスタイルの船旅のシーンとも言える。しかしこういった温かいおもてなしはきっと船客にとって忘れられない思い出となるだろう。

1/3 シアヌークビル
早朝、エーゲアンオデッセィはカンボジアの外港、シアヌークビルに到着した。見渡す限り高い建物はなく、土地に起伏もない。いったいここには何かがあるのだろうか?
今日の寄港地観光は2種類から選べる。ひとつは首都プノンペンへ行く1日観光、もうひとつはシアヌークビル市街地半日観光。私は後者を選んだ。
バスに乗り、車窓観光から始まる。ほどなく街の中心のマーケットへ到着。ここが非常にディープな世界が広がり、ある意味すごい光景が広がる。雑貨屋、金物屋、両替商など、所狭しと店が並ぶ。みなあまりしつこく売り込んできたりしない。まだあまり観光客になれていないようだ。屋外にもマーケットは広がる。携帯電話屋、歯医者、その隣はバナナをぶら下げた果物屋、そして貝類が並ぶ店。その光景は、私の生まれたときでも見たことがないぐらい、古い光景だ。


1/5 ホーチミンシティ
1日終日航海日を挟んで、朝方サイゴン川の下流に差し掛かる。ここから4時間悠久幽玄なるリバークルーズが続く。曇り空、青々と生い茂る密林。デッキチェアに腰掛け、ダージリンティーをすすりながら眺めていた。地中海クルーズのような華やかさはないが、なんと言えばいいか、どこかほっとする、しっくりくるのだ。リバークルーズの始まりはとても静かだったのだが、だんだんといろんな音がしてくる。産業の音だ。そしてビルや橋が見えてくる。車が増えてくる。正午、船はホーチミンシティに到着した。
今日は、市内観光ツアーに参加する。市の中心にはフランス統治時代の建物も数多く残っている。そしてベトナム戦争の資料館を訪れた。この戦争はいったい何のための戦争だったのか、この機会にちゃんと読み解いてみたいと思い陳列された写真と資料を丁寧に見てまわったが、結局不毛な争いが続けられたとしか思えないのだ。戦争に正当な理由などないのだろう。
 しかし、ベトナムは平均年齢も若く、経済も益々発展してゆく国である。街を行く無数のバイクや自転車、それを見ているとどこか活気を感じる。船でこの街にやってきて、そういうベトナムの今を一端でも感じれたことはこのクルーズに参加した大きな収穫と思っている。
 振り返れば、デラックスなホテルでの滞在から始まり、カンボジアとベトナムを船で巡り、それぞれの国の今を見聞することができた。それはとても刺激的で、ときに深く考えさせられ、今の自分の幸せに感謝し、彼らの平和に安堵感を覚える。 キャビアとシャンパンのゴージャスなクルーズもいいが、このクルーズのように、船で訪れる国の歴史と文化にもう一歩踏み込む、というテーマ性を持った旅は、メリハリがあってどこか充実感がある。
そしてこのクルーズに参加している船客は、どこか優しい眼差しをしている。
実にいい旅だった。そして実にいい船旅だった。


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